東京地方裁判所 昭和37年(ワ)8825号 判決
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【判決理由】
(本件特許発明の要部)
二 本件特許発明は、海藻よりの寒天製造法にかかり、従来寒天の原藻としえなかつた海藻からも寒天を経済的多量に収得することを目的とするものであり、その要部は、
(一) アルカリ剤の水溶液中に、適宜の電解質の作用下において海藻を浸漬すること、
(二) この海藻を瀘過して残渣を得ること、
(三) この残渣を、脱アルカリのため、完全に水洗すること、にあることは、当事者間に争いのない前掲明細書における特許請求の範囲の項の記載及び成立に争いのない甲第一号証(特許公報)及び同第四号証の一(証人((省略))の尋問調書)並びに原告本人尋問(第一回)の結果に徴し明らかである。
この点に関し、原告は、「電解質の添加は任意的なものである」旨主張し、また、甲第二号証(弁理士((省略))の鑑定書と題する書面)には「……電解質を加えることは、……寒天質の収得率を増加させるに過ぎないのであるから、……本件特許発明の根本思想には関係がないものである」旨の意見が記載されているが、これらの主張及び意見は、前掲各証拠に照らし、いずれも当を得ないものといわざるをえない。けだし本件特許発明においては、物理的外形的に電解質を加えることは、必ずしも常に必要ではないことは前顕甲第四号証の一、原告本人の供述(第一回)に徴し明らかであるから、その意味においては、「電解質の添加は任意的である」といえないではないが、本件特許発明の方法において電解質を添加するのは、添加することに意味があるのではなく、帰するところ、電解質の作用を期待するためであることは、事の性質上、いうまでもないことであることを考えれば、このような主張がいかに実質的考察に欠けるかは明らかであり、また、甲第二号証の見解は、本件特許発明において、収得率の増大が重要な目標であることを忘れたものといわざるをえないからである。
他方、被告らは、本件特許発明にいう「電解質」は、その主張のような特定のアルカリ金属塩(一価)に限られるものである旨抗争するが、前掲甲第一号証(本件特許公報)の「発明ノ詳細ナル説明」の項に、電解質の例として、被告ら主張の特定の電解質を使用する旨の記載があることを除いて本件特許発明における電解質を、被告ら主張のものに限定しなければならない実質的理由は一つとして発見し難く、しかも、同号証の「登録請求ノ範囲」の項に、電解質の作用を期待する物質として木炭汁、海藻灰汁等を挙げている事実を考慮すれば、被告らのいうところが、いかに形式論的であり、採用に値しないものであるかは、これ以上の説明を要せずして明らかであろう。
また、被告らは、「抽出法によらざる海藻よりの寒天製造法」であることを、本件特許発明の要部である、と強く主張するが、そのいうところの「抽出法」が、「海藻より水により直接寒天を抽出する方法」の意であるならば、本件特許発明の方法は、前認定の要部から明らかなとおり、いわゆる抽出法によらないものといえるし、また、その「抽出法」が、前記の方法により製造された物質(被告らは、これを「寒天」ではなく「寒天質」といわんとするもののようであるが、その学問的正しさの点は別として、このような物質も、出願ないし登録当時の通俗的社会観念においては、なお「寒天」と称しえたものであつたことは、原告本人尋問(第一回)の結果に徴しても、容易に首肯しうるところである。)を、さらに良質の商品としての寒天として精製する工程をも含めていうのであれば、原告の寒天製造工程においても「抽出法」が採られているといえるのであるが、この商品としての精製工程は、本件特許発明のあずかり知らないことであることは、前認定の本件特許発明の要部に照らし明白ということができるから、被告らの主張は、この点においても、徒らに字句の末に拘泥し、考案としての本質を見忘れたものといわざるをえず、もとより採用すべき限りではない。(三宅正雄 太田夏生 荒木恒平)